ネコオドルのほんのつぶやき

自然豊かな小さな町で、猫4匹と暮らしています。小さな本屋「ネコオドル」店主が、本のこと猫のことなどをつぶやきます。

本(一般)

校正という仕事

残さない仕事。 『文にあたる』牟田都子/著、亜紀書房 フリーランスの校正者による、校正エッセイ。 校正という仕事にとても惹かれます。 日ごろから牟田さんのSNSも拝見しているのですが、牟田さんが発する校正に対する言葉を聞いていると、ふと思うことが…

運命の鍵

死刑執行のカウントダウン。 『幻の女』ウイリアム・アイリッシュ/著、早川書房妻と喧嘩して家を飛び出し、街をさまよっていたスコットは、奇妙な帽子をかぶった女と出会う。 気まぐれで女と食事や観劇をし家に帰ると、妻は殺されていた。 スコットは自分の…

私達の祖父の戦争

戦うことになんの意味があったのか。 『祖父の戦争』早坂隆/著、幻冬舎余命わずかの祖父から聞いた、あの戦争の話。2005年に現代書館から出版されたこの本、今年の夏に育鵬社から『祖父が見た日中戦争』とタイトルを変えて改訂版が出ています。 その改訂版…

形に残す。

1年の日記。 『驟雨とビール』『爽やかな茸』『白ねこ黒ねこ』『頭蓋骨のうら側』武塙麻衣子/著、自費出版2021年6月1日から2022年5月31日まで、夏からはじまる1年間の日記。 それぞれ3か月分ずつ収載されています。武塙さんの世界の切り取りかたは美しい。 …

猫の手屋

おのれのためは、猫のため。 『猫の手、貸します 猫の手屋繁盛記』かたやま和華/著、集英社ある事情で白猫の姿になってしまった武士の宗太郎は、裏長屋でよろず請け負い家業「猫の手屋」を営んでいる。 善行を積んで、元の人の姿に戻れる日はやってくるのか…

小さな出版社

小さいけど、大きい! 『日本でいちばん小さな出版社』佃由美子/著、晶文社ある日突然、出版社になってしまった著者の奮闘を綴った体験記。この本、装幀やタイトルから勝手にイメージしていたのとは、ぜんぜん違いました。 なんとなく、穏やかで和やかにコ…

布にスケッチ。

素朴でおしゃれな猫の刺繍。 『フランスから届いた絵本みたいな刺しゅう』今野はるえ/著、産業編集センター刺繍は、子どもの頃にすこしやった程度。 そんな私ですが、この本はどうしても欲しくて買ってしまいました。そう、絵本のように、眺めるだけ。絵本…

神様

神様は偉大で、やっかいだ。 『その午後、巨匠たちは、』藤原無雨/著、河出書房新社町にふらりと現れた、歳を取らない女性・サイトウ。 山の中に建てた神社に6人の巨匠画家を神様として呼び寄せた。 町は、画家たちが描く絵画の世界に支配されていくが…。…

歴史に埋もれる

元祖ひとり出版社。 『第一藝文社をさがして』早田リツ子/著、夏葉社戦前のひとり出版社「第一藝文社」の知られざる軌跡を描く。戦前の小さな出版社に興味を持って調べる。 そんな風変わりなことをする人が私以外にもいたのかと、勝手ながら同士の活動報告…

戦争と猫

戦争の愚かさを。 『シリアで猫を救う』アラー・アルジャリール/著、ダイアナ・ダーク/著、大塚敦子/訳、講談社内戦下のシリアで、人や動物を助ける活動を続けるアラー・アルジャリールの記録。子どもの頃から消防士や救急車の運転手になるのが夢だったア…

やさしさとはなにか

猫は出てこないけど。 『やさしい猫』中島京子/著、中央公論新社シングルマザーのミユキさんと、日本に暮らす8歳年下スリランカ人のクマさん。 出会って惹かれあったふたり、ずっと一緒にくらしていくという願いが、突然奪われて…。ずっと一緒にいたいだけ…

赤革の手帳

愛は盲目。 『赤いモレスキンの女』アントワーヌ・ローラン/著、吉田洋之/訳、新潮社ある日パリの書店主が拾ったバッグには、赤いモレスキンの手帳とモディリアノのサイン本が入っていた。 手帳に綴られた不思議な文章に惹かれた男は、バッグの持ち主を探…

絵物語ねこまち

ポップに、妖しく。 『猫町』萩原朔太郎/著、しきみ/絵、立東舎萩原朔太郎の「猫町」を美しいイラストとともに。物語が持つどこか不気味な雰囲気を、可愛らしくも妖しげなイラストで彩った1冊。不気味さは、増幅されている。 でも、可愛らしくもある。とて…

湿地の少女

沼にはまる。 『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ/著、友廣純/訳、早川書房ノースカロライナ州の湿地で村の青年チェイスの死体が発見された。 人々は「湿地の少女」と呼ばれているカイアを疑う。 6歳のときからたったひとりで生き延びてきた…

猫魂

命はすべて等しい。 『猫だましい』ハルノ宵子 /著、幻冬舎自身の闘病、両親の介護と看取り、猫たちとの出会いと看病そして別れ。 すべて等しく「生命」について綴ったエッセイ。漫画家・エッセイストである著者は、吉本隆明の長女であり、よしもとばななの…

あなたも私も

通りすぎるまえに。 『ほんのちょっと当事者』青山ゆみこ/著、ミシマ社わたしたちが「生きる」ということは、「なにかの当事者となる」ことなのではないだろうか。 様々な社会問題を「自分事」として考えてみた社会派エッセイ。 社会派なのに明るくて、ユー…

猫を抱く

それぞれの幸せのかたち。 『猫は抱くもの』大山淳子/著、キノブックス東京郊外を流れる青目川に架かる「ねこすて橋」。 この橋では、夜になると猫たちが集会を開いている。 飼い猫、野良猫…それぞれの事情を持つ猫と人間たちが織りなす連作短編集。映画化…

賢治の愛

時代の波に消された恋。 『宮澤賢治 愛のうた』澤口たまみ/著、夕書房賢治には恋人がいた。生涯独身だったことから、その恋心は妹トシや親友に向けられたと解釈され「聖人」と呼ばれることの多い宮澤賢治。私は、賢治には結婚を考えるような恋人がいたこと…

冴子さんの日常

東京ライフ。 『冴子の東京物語』氷室冴子/著、集英社長電話魔の冴子さんは、莫大な長距離電話代を浮かすため、生まれ育った北海道から東京へ引越しをすることに。 1987年に書かれた、氷室冴子等身大のエッセイ。最近古本屋さんで見つけて、思わず手にして…

猫がいる百貨店

百貨店には魔法使いがいる。 『百貨の魔法』村山早紀/著、ポプラ社戦後の焼け跡のなかに、街の人々の希望として生まれ、愛されてきた星野百貨店。 創業50年を迎えた今、閉店が近いのではないかとささやかれている。 魔法を使う白い子猫がいるという噂がある…

赤と青

『赤と青とエスキース』青山美智子/著、PHP研究所赤と青で描かれた女性の絵。 1枚の水彩画によってつながる5つの物語。今までの青山美智子さんの作品とは少し違う印象がありました。 でも読み終わると、これぞ青山さん、という感じなんです。じんわりとあた…

うろ覚え

曖昧上等! 『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』福井県立図書館/編著、講談社図書館で探している本のタイトルが、うろ覚えだったり、ざっくりあいまいだったり。 そんな覚え違いの中から厳選した面白おかしい90タイトルの事例集です。うろ覚えでも大…

見ている世界がすべてじゃない

隣にいること。 『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒/著、集英社インターナショナル全盲の白鳥建二さんとアート作品を鑑賞する。 見えない人と見るからこそ、見えてくるもの。川内さんが描くノンフィクション作品の魅力のひとつは、川内さ…

抹茶カフェ

だれもが主人公。 『月曜日の抹茶カフェ』青山美智子/著、宝島社川沿いの桜並木のそばに佇む喫茶店「マーブル・カフェ」。 定休日の月曜日に1度だけ「抹茶カフェ」を開いたところから、人々のご縁がつながってー。 一杯の抹茶からはじまる、東京と京都をめ…

作家とにゃんこ

ねこと紡ぐ。 『作家と猫』平凡社編集部/編、平凡猫を愛する作家49名の、猫にまつわるエッセイ集。佐野洋子、まど・みちお、向田邦子、夏目漱石、水木しげる…。 おなじみの人から「あら、あなたも?」という意外な人まで、猫にまつわるエピソードが満載です…

従軍記者

伝えたこと、伝えたかったこと。 『清六の戦争 ある従軍記者の軌跡』伊藤絵理子/著、毎日新聞出版太平洋戦争末期、軍属の記者としてペンをとり続けた伊藤清六。 爆撃下の洞窟でガリ版刷りの新聞を作り続けました。 75年後、自らも記者となった著者が、祖先…

みとりねこ

いつまでも一緒に。 『みとりねこ』有川ひろ/著、講談社猫と暮らすこと。 優しくてちょっと切ない7つの物語。どうしたって猫より人間の方が長く生きる。猫の成長の早さを、猫目線から見た人間の子どもの成長の遅さとして描写されると、おかしくてしょうがな…

ヒロシマの港

なぜ広島に原爆が落とされたのか。 『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』堀川惠子/著、講談社広島の軍港・宇品に置かれた、陸軍船舶司令部。 3人の司令官の生きざまを軸に宇品の50年を描き出すノンフィクション。「暁部隊」の名前で親しまれていた陸…

ひとり出版社

思いを届ける仕事。 『ひとり出版社という働きかた』西山雅子/編、河出書房新社港の人、赤々舎、ミシマ社、土曜社、タバブックス… 小出版社を立ち上げた彼らの個性豊かな発想とその道のり、奮闘をリアルに綴る。新たにコロナ後の働きかた、出版記を加えた増…

見えない敵

今、読むべきか、読まざるべきか。 『復活の日』小松左京/著、KADOKAWA生物化学兵器を積んだ小型機が、真冬のアルプス山中に墜落した。 感染後5時間でハツカネズミの98%を死滅させる新種の細菌は、摂氏5度で異常な増殖をみせ、春の雪解けと共に爆発的な勢…