ネコオドルのほんのつぶやき

自然豊かな小さな町で、猫4匹と暮らしています。小さな本屋「ネコオドル」店主が、本のこと猫のことなどをつぶやきます。

あなたも私も

通りすぎるまえに。

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『ほんのちょっと当事者』青山ゆみこ/著、ミシマ社

わたしたちが「生きる」ということは、「なにかの当事者となる」ことなのではないだろうか。
様々な社会問題を「自分事」として考えてみた社会派エッセイ。
社会派なのに明るくて、ユーモアあふれてます。

ローン地獄、児童虐待、性暴力、障害者差別、看取り、親との葛藤…。

ここまで曝して大丈夫なのかと心配になってしまうほど、自身の体験を赤裸々に告白していて、それが私達読者の中に眠っていた(隠していた)小さな当事者意識の欠片を呼び起こす力になっているのだと思います。
誰にだって小さな当事者の欠片があって、でもそれはきっと忘れたり隠したりしたい類いのものだから知らないふりをしている、それがきっとそこらじゅうにあふれている「無意識」のひとつの形なのではないでしょうか。

私にも「当事者」はいくつもあって、いくつかは人に話したことがありません。
だってそれは忘れたいことで、隠したいことだから。

そのなかのひとつに幼少時代のことで、最近になって発達障害の症状として認められるようになったものがあります。
青山さんが本の中で触れていた「おねしょ」のように、今は「治療すれば治る」ものとして認識されるようになっていたり、あるいは発達障害の症状のひとつだと理解されるようになっているけれど、ひと昔前までは「心の持ちようだ」と軽視され、きちんと向き合うこともさせずにいたことは多くありました。
たんなる甘えだ、心が弱いからだ、と。

それに名前がつけられ、発達障害の症状のひとつに認識されていることを知ったきっかけは、勤務先の図書館で選書中に見つけた1冊の本でした。
その本を読んだときの驚きと安堵は、忘れることができません。
まだ本になり始めたばかりの頃でその1冊しかなかったけれど、こうして研究され理解され世間に認識されていくことが、どれだけの子ども達を救うことになるか…、それを思うと泣けてくるほど嬉しかった。

私が子どもだった当時、それを理解できる大人はいなくて、自分でもどうしようもできなくて、とてもツラい幼少期でした。
運動中に水を飲んではいけないと信じられていた時代。
学校を休んではいけない時代。
ついてこれない奴が悪い、弱音を吐くことは負けだ、とわけのわからない精神論がものをいっていた時代。

今だから客観的に分析できるけど、当時は自分でも理由がわからない上に、先生にとことん追い詰められるものだから、全部自分が悪いのだと思っていました。
大人になった今、自分が悪いわけではなかったと知ることができて、少し救われたけれど、当時を思い出すと先生から受けたひどい仕打ちに今でも心がキュッと縮こまる思いがすることに変わりはありません。

今の子ども達にあんな思いをさせることがないよう、きちんと大人の理解を広めていかなくてはいけないと思います。

私の「当事者」も、あなたの「当事者」も、ちょっと声をあげるだけで誰かを救うかもしれない。

みんなのなかの当事者スイッチをほんのちょっと押してくれる1冊です。

猫を抱く

それぞれの幸せのかたち。

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猫は抱くもの大山淳子/著、キノブックス

東京郊外を流れる青目川に架かる「ねこすて橋」。
この橋では、夜になると猫たちが集会を開いている。
飼い猫、野良猫…それぞれの事情を持つ猫と人間たちが織りなす連作短編集。

映画化されているのを知りませんでした。
元々私は猫が語り部となっている小説はあまり読まない人だったので、最近になって遡っていろいろ読んでいるのです。
読んでみると面白いのに、なんで読んでこなかったのか。
でも、いつでも読める、それが本のいいところです。

どうしたって飼い主である人間の都合に左右されてしまう、猫たちの不安定な暮らし。
猫の幸せは、どこにあるのか。

きっとそれは、猫によって違うし、人間には決められないもの。
猫に選んでもらえるように、私なりの幸せを分けていきたい。

切なくてあたたかい物語です。

賢治の愛

時代の波に消された恋。

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宮澤賢治 愛のうた』澤口たまみ/著、夕書房

賢治には恋人がいた。

生涯独身だったことから、その恋心は妹トシや親友に向けられたと解釈され「聖人」と呼ばれることの多い宮澤賢治

私は、賢治には結婚を考えるような恋人がいたことに、なんだか安心しました。
叶わなかった恋であったとしても、一時は相思相愛だったということにも。

春と修羅』や「やまなし」など、賢治の恋心が隠されている作品、隠すどころかそのまま表現されている作品もあるんですね。
もう、そう言われてしまえばそうとしか読めないくらいストレートな「シグナルとシグナレス」とか。

宮沢賢治は好きだけどそこまで深く読み込めていない私のような人って、結構多くいると思うのですが(私だけかな)、こういった背景を知ってから作品を読むと、より一層賢治の世界を楽しめるかもしれません。

恋をしていた人間・宮沢賢治
魅力度が増しました。

冴子さんの日常

東京ライフ。

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『冴子の東京物語氷室冴子/著、集英社

長電話魔の冴子さんは、莫大な長距離電話代を浮かすため、生まれ育った北海道から東京へ引越しをすることに。
1987年に書かれた、氷室冴子等身大のエッセイ。

最近古本屋さんで見つけて、思わず手にしてしまった未読の思い出本。
出版された当時、私はまだ子どもで、大人の女性の東京暮らしエッセイなんて面白みがまだわからず、氷室冴子さんの小説は片っ端から読んでいたけれど、これは読めていなかったのでした。

携帯電話はもちろん子機もないから、コードをひっぱって歩き回っていた時代。
通話すればするだけ電話代がかかる時代。
それでも何時間も長電話して稼ぎのほとんどを電話代につぎ込んでいた冴子さんに今の時代を教えたら、どんなにうらやましがるでしょう。
通話し放題、リモート飲み、今当たり前にできることのどれもこれもが、冴子さんを喜ばせるに違いない。

これを書いていた冴子さんは、今の私よりも年下。
描かれている暮らしは、まぎれもない昭和の世界。
いろんな意味で懐かしさあふれる1冊でした。

それにしても、やっぱり氷室冴子さんの書くものはおもしろい。
他のエッセイも探して読みたくなりました。

木彫りの猫

ねこをほる。

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『はしもとみお猫を彫る』はしもとみお/著、辰巳出版

猫ですか?いいえ、彫刻です。

大人気の動物彫刻家、はしもとみおさんの初の猫作品集です。

まるで生きているかのよう。
一瞬を切り取って木の中から彫りだされた猫たち。
圧巻の、猫まみれです。

荒々しい彫りあとが生命の強さを感じさせながらも、猫のフサフサ感やポテッと感のような愛らしさをきちんと表現していて、猫のぬくもりがちゃんとそこにあるんです。

モデルになった猫さんは幸せだなあ。

いつだったか、お店に木彫りの猫が置きたいなあ…とふと思ったことを思い出しました。
ああ、こんな猫さん置きたい。

猫好きさん大満足の1冊です。

ようこそ、トラ!

とら年ですね。

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『おちゃのじかんにきたとら』ジュディス・カー/作、晴海耕平/訳、童話館出版

お茶の時間に、突然ソフィ-の家を訪ねてきたとら。
おなかが空いているというとらを、ソフィーたちは快く招き入れます。
とらは、ソフィの家の食べ物や飲み物を全部平らげてしまい…。

突然のお客さん、それも大食漢!
なんて迷惑な…とつい思ってしまいそうな場面で、この絵本を思い出したい。

ソフィーもソフィーのお母さんも、外から帰ってきたお父さんも、なんというか器が大きいのです。

ピンチを楽しみに変える余裕のある心。
見習わなくてはと、この絵本を開くといつも思います。

お行儀よくテーブルについているトラがなんともキュートで、トラの絵本のなかでもお気に入りの1冊です。

2022

新年あけましておめでとうございます。

毎度のことながら、猫とこたつで丸くなるお正月を過ごします。

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キャットタワーで丸くなる猫。

先が見えないコロナ禍ではありますが、ネコオドルは変わらずに、本との出会いを、そして本で繋がる人との出会いを、みなさまにお届けしていきます。

本の紹介も、週2回のペースで続けていきますよ。

2022年。

ニャンニャンニャンの年。

今年もよろしくお願いいたします。