ネコオドルのほんのつぶやき

自然豊かな小さな町で、猫4匹と暮らしています。小さな本屋「ネコオドル」店主が、本のこと猫のことなどをつぶやきます。

見ている世界がすべてじゃない

隣にいること。

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『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒/著、集英社インターナショナル

全盲の白鳥建二さんとアート作品を鑑賞する。
見えない人と見るからこそ、見えてくるもの。

川内さんが描くノンフィクション作品の魅力のひとつは、川内さんご本人の姿が見えることだと思っています。

この本は、川内さんが体験したことから感じた思いや感覚をそのまま追体験できるもの。
ルポルタージュというより体験記といった色合いが強いのですが、その隣には必ず白鳥さんがいて、白鳥さんを追ったドキュメンタリーでもあります。

ザ・ノンフィクション!というような事実の客観性を求めている人には、情報の物足りなさや個人的意見の過多さが気になるかもしれません。
しかし、「川内有緒という人を読みたい」「川内有緒を感じたい」という私のような読者には、それこそが魅力なのです。
川内さんが聞いたら気持ち悪がられるかもしれない…。

読む前は、タイトルから勝手に重いモノを感じていました。
私は視力を失うということに対して、極度の恐れを抱いています。

でも覚悟して読み始めたら、あれ、想像してたのと違った。
今私は学びを得ているんだけど、よかったらあなたも一緒に考えてみませんか?
そんな川内さんの声が聞こえてくるかのような本でした。

アートには、ひとつの確かな答えがあるわけではない。
そんな単純だけど奥深い真理を、目からウロコの方法で教えてくれました。

見えない人が求めていることを、見える人は勝手に決めつけていないか。

ひとりで見るか、誰かと見るか、誰と見るか。
そこに、目が見えるも見えないも関係なかった。

誰かと一緒に、アートを見に行きたくなりました。
そして、白鳥さんに会いに行きたくなりました。

現在進行形の、世界です。