鳥
そっと見まもって。
ちいさな女の子、□(しかく)ちゃん。
8編のショートストーリーで綴られた美しい大人の絵本です。
子どもにしか見えない世界というのはきっとあって、それは空想とかあっちの世界とかではなく、自分自身のなかで完結している世界。
私は自分の世界に没頭しちゃうタイプの子どもだったので、□ちゃんと似ているのかもしれない。
この絵本にすごく共感してしまった。
ひとり遊びをしていて大人に「なにしてるの?」って声をかけられたり、絵を描いていて「なにをかいてるの?」って聞かれたり、そういうのがすごくすごく苦手な子どもでした。
その瞬間、私の世界が終わってしまうから。
説明なんてできないし、したくないし、そもそも「なに?」って聞かれたくないし、きっと言ってもわからない。
だからなのか大人が苦手でした。
小さな小さな世界だけど、大切な私の世界。
だれにも邪魔されたくない、楽しい世界。
そんなちいさな世界を思い出させてくれた絵本です。
やさしさとはなにか
猫は出てこないけど。
シングルマザーのミユキさんと、日本に暮らす8歳年下スリランカ人のクマさん。
出会って惹かれあったふたり、ずっと一緒にくらしていくという願いが、突然奪われて…。
ずっと一緒にいたいだけなのに、それだけのことがこんなにも難しいなんて。
入管収容や在留資格をめぐる裁判、理不尽な世界との闘い。
以前読んだ『N女の研究』というNPOで働く女性をとりあげたノンフィクションで、難民支援に取り組むNPOで働く女性のインタビューが載っていたのを、この本を読んで思い出しました。
日本の難民問題の闇の深さ。
当時も愕然としたけど、物語として突きつけられると、心が痛む。
日本に暮らす外国人にとって、日本は優しい国であってほしいと願う。
好きな作家の小説から、「面白そう」とふと手にした本から、日本のもう一つの真実を知り、考えるきっかけになればと思います。
うちの猫へん。
かわいいの意味で。
『うちの猫がまた変なことしてる。』卵山玉子/著、KADOKAWA
トンちゃんとシノさん2匹の猫との暮らしを描いたコミックエッセイ。
トンちゃんもシノさんも、性格や特徴をよくとらえています。
そして小さな変化も表情もしぐさも、全部拾ってしまう卵山さんに脱帽。
よく気づくなーってくらい小さな「かわいい(あるいは変な)こと」をちゃんとキャッチしていて、私も長年猫と暮らしているのに「その着眼点はなかった!」ってことがたくさんです。
当たり前のようにそこにいるけど、実はこんなに変で面白かったのね。
と、うちのこ達の見方も変わる発見に満ちています。
続きが6巻まで刊行されていて、預かり猫のたねおも登場してさらに賑やかに楽しくなります。
個性豊かな猫たちのかわいさに癒やされる猫コミックエッセイ、おすすめです。
赤革の手帳
愛は盲目。
『赤いモレスキンの女』アントワーヌ・ローラン/著、吉田洋之/訳、新潮社
ある日パリの書店主が拾ったバッグには、赤いモレスキンの手帳とモディリアノのサイン本が入っていた。
手帳に綴られた不思議な文章に惹かれた男は、バッグの持ち主を探し始める。
このあらすじと「大人のためのおとぎ話」という謳い文句から、なんとなく結末に察しがつくのではないでしょうか。
ええ、察しがついた上で読んだのです、私も。
それを前提としても、この物語は、私にはホラーでしかなかった…。
拾ったバッグを一度は警察に届けようとするも、あまりの混雑に翌日行くことに決めたところまではいい。
ああ、拾得物を警察に届けようとする誠実な人なんだとわかって、まず安心できたから。
でも、自宅でバッグの中身を事細かに調べだしたあたりから、背中がゾワゾワ…。
手帳の中身を読み、その人に会ってみたくなり、自分でバッグの持ち主を探そうと決意する。
この時点で私にはギリギリアウトです。
その後の行動のことごとくが、怖いったらありゃしない。
この本を読んでロマンティックだと感じるのは、もしかしたら男性の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。
女性の読者は、バッグの持ち主と自分を重ね合わせて読んだら、気持ち悪っ!ってなりませんか?
運命の人になるか変質者になるかは、相手の受け取り方次第ということでしょうか。
ストーカーだって相手に受入れられれば愛情深い恋人ですしね。
私は「大人のためのおとぎ話」第1弾の『ミッテランの帽子』を読んでいないので、こちらを先に読んだ方がよかったのかもしれません。
アントワーヌ・ローランの世界観、私には上級者向けすぎだったようです。
絵物語ねこまち
ポップに、妖しく。
物語が持つどこか不気味な雰囲気を、可愛らしくも妖しげなイラストで彩った1冊。
不気味さは、増幅されている。
でも、可愛らしくもある。
とても不思議な絵物語に仕上がっていて、この本ではじめて「猫町」を読む人はどんな感想を持つのだろうかと想像してしまいます。
私の初「猫町」は、美しい写真で彩られた本でした。
そこでは本来感じるであろう物語の「不気味さ」が半減されていて、「幻想的」という印象が強く残ったのでした。
もちろん、文章は何一つ変えていないのに。
その後、岩波文庫で読んだときに感じた「怖さ」。
それは幻想的というよりも、底知れない不気味さでした。
美しい写真やイラストは、見えない恐怖や想像を打ち消し、安心を与えてくれるのかもしれません。
人間の想像力の底力を実感するにはもってこいの物語。
それが「猫町」。