ネコオドルのほんのつぶやき

自然豊かな小さな町で、猫4匹と暮らしています。小さな本屋「ネコオドル」店主が、本のこと猫のことなどをつぶやきます。

埼玉妖怪見聞録@さいたま文学館

6月4日、さいたま文学館で開催中の企画展「埼玉妖怪見聞録」に行ってきました。

この日は朗読会「朗読で聞く埼玉の妖怪伝説」が催されるのです。

実はこの企画展と朗読会、猫(の妖怪)がつないでくださったご縁なのです。

以前からフォローしているさいたま文学館公式さんのTwitterで、この企画展の情報を知った私。
面白そう!とツイートを「いいね!」したところ、一通のDMが届きました。
なんと公式さんの中の人から、「いいね!」に対する直接のお礼の言葉と「企画展では寄居の少林寺の猫塚も紹介しています」との情報です。
舞い上がった私は「少林寺の猫の民話はネコオドルの名前の由来にさせてもらったお話なんですよー!」と嬉しさ爆発させたお返事をしてしまいました(少林寺の猫は茶釜を持って踊ったのです。踊る猫→猫踊る→ネコオドル)。

するとすると、さすがです。
すでにリサーチ済みのご様子。
そっか、だからDMくださったのね!
それにしても埼玉の妖怪伝説の調査過程でネコオドルがひっかかるとは、恐るべし学芸員さんのリサーチ力!

と、密かに恐れおののいていると、なんと!
朗読会で少林寺の猫塚のお話を朗読するので、その時にネコオドルの店名の由来を紹介するつもりだとのこと!
そんなことして文学館さん大丈夫なの?!と逆に心配になってしまうような嬉しいお申し出に、更に舞い上がる私。
学芸員さんの懐の深さ、半端ない。

数日後には「お店を紹介させていただくお礼に」との言葉が添えられて、企画展の招待券と図録がお店に届き、もう恐縮の嵐です。
6月4日は嵐がきても槍が降ってもさいたま文学館に行くことを猫(の妖怪)に誓いました。

こんなやりとりがあっての、朗読会です。

朗読会「朗読で聞く埼玉の妖怪伝説」は、埼玉県の6つのエリアから2、3話ずつの全15話。
県立図書館司書で日本朗読検定協会認定講師である松本絵美さんの朗読に、学芸員さんの解説がつく、とても贅沢な構成です。

会場でプログラムを見ていると、裏面に各話あらすじが。


少林寺の猫塚」だけあらすじ紹介のテイストが違う気がする!
なんか熱量が高い!

東部エリアからはじまった朗読。
松本さんの涼やかな声がとても心地よい。
時に怖ろしく、時に気のいい妖怪たちのお話に、ぐんぐん引き込まれました。

学芸員さんの解説は、実際に妖怪伝説の場所を訪れて撮影した写真をスクリーンに映しながらの、臨場感あふれるものでした。

東部から中央、西部…とエリアはうつり、北部は最後の2話。
少林寺の猫塚」は14話目でした。

実は私、このお話を覚えてストーリーテリングしたことがあるのですが、松本さんが朗読したお話は、私が知っているものと若干ニュアンスが違っていたので、出典が気になります。
私は覚えたのは「猫寺」だったので、そもそもタイトルからして違うのですが。

猫が柩を空高く舞上げたのを、猫から教わった方法で和尚が戻し、和尚の評判があがって寺が繁栄する。
お寺で飼われていた猫が飼い主の和尚に恩返しをするお話、同じような民話は深谷市「猫檀中」のほか、埼玉県外にも語り伝えられています。
でも、猫が茶釜を持って踊るのは寄居の少林寺だけで、とても珍しいとか。
寄居には「猫窪」という民話も伝わっていて、その猫たちも踊ります。
どうして寄居の猫は踊るのか。
とても気になります。

学芸員さん、朗読の前に「一番好きな話」と仰っていたとおり、解説にも力が入っていました。
現在の少林寺に猫塚は残っていないのですが、猫のものと思われる石像があり、残念ながら頭部が欠損しているけれど「この前足や尻尾の感じは猫ですよね!」と、力強く説明してくださいました。

そして、調査過程で見つけたというネコオドル、Twitterトップ画面をスクリーンに大きく映し出してくれました!
その瞬間、会場内がざわついたのをしっかりと覚えていますよ。
満場のお客さんもびっくりのネコオドル解説、本当にありがとうございました!

おまけに、さいたま文学館で、猫グッズを見つけました。


ポストカードとメモ帳。

2010年に開催された企画展「文学館に猫大集合」の時にデザインされたグッズのようです。
猫好きとしては、再び文学館に猫が大集合することを願ってやみません。

「文学館に猫大集合」の図録も学芸員さんが送ってくださって、手元にあるのですが、よくよく見ると、妖怪展も猫大集合展も、同じ学芸員Dさんが企画されたものでした。

Twitterでネコオドルにお声かけくださったり、「埼玉妖怪見聞録」のイラストに猫が多く登場したり、猫塚のお話を「一番好き」と仰っていたり、あらすじの熱量が高かったり…。
もしやもしやと思っていたのですが…
「文学館に猫大集合」を企画されたと知って確信しました。

Dさんは猫好きに違いない!

貴重な体験をさせていただきました。
本当にありがとうございました。

空飛ぶねこ

気球に乗ってどこまでも


『ききゅうにのったこねこ』マーガレット・ワイズ・ブラウン/さく、レナード・ワイスガード/え、こみやゆう/やく、長崎出版

ねずみに追いかけられてばかりいたこねこ。
ある日こねこは気球に飛び乗り、ねずみのいない所へ行くことに。

ねずみが怖い。
「猫なのに」と言われてしまいがちな設定。
そこにつっこませる隙間を与えずに描きはじめる出だしから、もうこの絵本が好きです。
怖がりな子トラを描いた絵本『こわがらなくていいんだよ』にも通じる世界観。
ねずみは怖いけど、空を飛んでいく勇気は持ち合わせているんですから、この子猫はたいしたものです。

汽車やサーカス、大きな街の上を飛んでいく子猫。
「ぼくはいまどこにいるの?」とたずねると「あなたは気球のかごの中でしょう」と返ってくるのがいい。
高いところから眺めているだけでは、そこにいることにはならない。

高いところから眺める世界はどれも穏やかそうだけど、時には雷や飛行機に遭遇して怖い思いもします。
空には空の怖さがあるのですね。

子猫はどこへたどり着くのでしょうか。

ワイスガードが描くきょとん顔の子猫がかわいらしい。
大好きコンビが手がけた猫絵本、ようやく古本で入手したら表紙が少し破れていたけれど、私の宝物です。

小さな出版社

小さいけど、大きい!


『日本でいちばん小さな出版社』佃由美子/著、晶文社

ある日突然、出版社になってしまった著者の奮闘を綴った体験記。

この本、装幀やタイトルから勝手にイメージしていたのとは、ぜんぜん違いました。
なんとなく、穏やかで和やかにコツコツと、のんびりと本を作る人のイメージだったのです。
でも、もっとちゃきちゃきの、ビジネスとしての出版社、裏話満載の本でしたよ、これ。

入り口が「大手取次の口座」ってところがすごい。
社員1人だけの小さな出版社といいつつ、やってのけていることが桁違いなのです。

出版業界のことは何も知らない状態ではじめた出版社。
企画から原稿書き、編集、制作、装丁をこなし本を作り、取次への納品に、書店営業、そして経理もやる。
「本を作りたい」から始めたわけじゃないのに、出版社になったのだからやらなければ、との思いでこれだけやってのけてしまうのだから、バイタリティが半端ない。

それにしても、取次って…と、考えてしまいました。
大手取次の口座を持つということは、書店だけでなく、出版社にとっても乗り越えるのが難しい壁なのですね。

出版業界の裏側をのぞき見るような、とても興味深い本。
2007年の本なので、今は状況が変わっている所もあると思いますが、とても勉強になりました。

布にスケッチ。

素朴でおしゃれな猫の刺繍。


『フランスから届いた絵本みたいな刺しゅう』今野はるえ/著、産業編集センター

刺繍は、子どもの頃にすこしやった程度。
そんな私ですが、この本はどうしても欲しくて買ってしまいました。

そう、絵本のように、眺めるだけ。

絵本のキャラクターのような猫さんが自由に動き回る図案が楽しく、まるで物語のようにワクワクするのです。

刺繍の技術は我流だという今野はるえさん。
糸の動きも猫の輪郭も、描きだされる世界が自由でほがらかな印象なのは、そのためかもしれません。

いつか刺繍をはじめるなら、こんな風に布にスケッチしたい。

とっても素敵な刺繍の本です。

お店番@太原堂

5月5日、熊谷にあるブックアパートメント太原堂さんでお店番をしました。

太原堂は、ひと棚ごとにオーナーさんがいて、それぞれがこだわりの本を並べて販売している本屋さん。
私がお店番をするのは2回目です。

お店番の日は、お借りしている棚以外にも持ち込み品を並べられます。
前回は猫グッズをたくさん持ち込み「ひとり猫まつり」を開催。
今回は、自費出版系で次々と素敵な本が発売されたタイミングだったことから、「自費出版本まつり」!

前回と同じ机が用意されているのかと思っていたら、今回はとても素敵な棚が!
ウキウキしながらさっそく商品を並べました。


この棚うちにもほしい!ってくらい、すてきなコーナーのできあがり。

11時にオープン。
フライング気味に、持ち込んだ猫の本を求めてお客さまが来てくださり、にぎやかにはじまりました。

この日はゴールデンウィーク中ということもあり、次々とお客さまがいらしてくださいました。

自分の棚の本はもちろんですが、他の棚オーナーさんの本が売れるのもとても嬉しい。
いろんな棚からたくさんの本が旅立っていきました。

前回は手間取った閉店後のレジ閉めも、今回は反省をふまえてしっかり準備してきたのですんなりとクリア。

お店番は、もちろん責任はあるけど、とても楽しく、自分のお店の参考になるような気づきもあります。

またお店番したいと思います!

とりとねことうた

ぼくのために歌ってよ。


『 うたえなくなったとりとうたをたべたねこ』たなかしん/絵・文、竹澤汀/歌、求龍堂

窓辺の鳥に恋をした黒猫と、歌えなくなった鳥の、切ないラブストーリー。

鳥が歌えなくなったことには理由があって。
だんだんと鳥に近づいていく黒猫には、それがちゃんとわかっていて。

鳥に恋をした黒猫の愛情表現はどれもとても素敵で。

キュンとして、ハッとして、せつなくなる。

とても不思議な物語です。

心が静かに穏やかになる、大人のための猫絵本です。

QRコードがついていて、歌と朗読が聴けますよ。

だから本をつくる。

大切な人に届けるために。


『あしたから出版社』島田潤一郎/著、晶文社

設立から5年目に綴られた「夏葉社」誕生までの日々、そしてそれからの歩み。

1冊1冊こだわりぬいて作られた本に、ファンも多い夏葉社。

いつかネコオドルで夏葉社さんの本を扱いたいな、とずっと漠然と考えていました。
そんななか出会った『第一藝文社をさがして』という本に後押しされて、夏葉社さんに連絡をとり、お取り扱いさせていただくことになったのですが、漠然としか知らなかった夏葉社さんについてもっと知りたいという気持ちからこの本を手に取りました。

とても失礼なことかもしれないけど、勝手に抱いていたイメージとは、まったく違いました。

夏葉社という社名も、作っている本も、なんなら島田さんの潤一郎という名前からも、「スマートなヤツ」という印象しかなくて、シュッとした感じでパパッとひとりで出版社はじめちゃった人なのかと勝手に思っていました、すみません。

でも全然違っていました。
すべては喪失からはじまっていたこと、挫折や失敗やつらい体験のあとに今があることが、飾らない文章からまっすぐに伝わってきました。

目の前のひとりのために本をつくり、届ける。
この人が作る本だから信頼できるんだ、と、腑に落ちた感じ。

この本をもっと早く読んでいたら、きっともっと早く連絡していたのに。
シュッとした人、という勝手なイメージで先送りしていたことを後悔します。
そういえば、メールを送っても一向に返信がなかったので、届かなかったのかもと不安に思いSNSのDMを送ったら「すみません、メール確認してたのに、返信するの忘れてました!」というメッセージが返ってきたことは、この本を書いた島田さん、この本に語られた島田さんのイメージにぴったりだったな、と、今になってフフっと笑ってしまう出来事でした。

大切にしたいものが何かがはっきりと見えている人は、強い。

10年目に書かれた『古くてあたらしい仕事』(新潮社)も、もう少し俯瞰的な視点から自身の思いをまっすぐに語っていて、あわせて読むのをおすすめします。