ネコオドルのほんのつぶやき

自然豊かな小さな町で、猫4匹と暮らしています。小さな本屋「ネコオドル」店主が、本のこと猫のことなどをつぶやきます。

ねこたち

熊さんの猫。

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『ねこたち 猪熊弦一郎猫画集』猪熊弦一郎/〔画〕、ilove.cat/企画・編集、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館/監修、ミモカ美術振興財団/監修、リトルモア

猫、猫、猫……頭の中まで猫が住み込んでしまった画家の、愛のデッサン。

画家・猪熊弦一郎の存在を恥ずかしながらつい最近まで知りませんでした。

「この絵、猪熊の猫絵を彷彿とさせるね」と、なにかの会話で、ぽんっと出てきた名前。

猪熊の猫絵。
熊さんなのに猫の絵か、と、ちょっと愉快に感じて検索したら、この猫画集を見つけました。
新刊は買えなかったので、古本で探して。

猫は猪熊弦一郎が好んで描いたモチーフのひとつだそうです。

いたずら書きのような猫から、彩色されアートになった猫まで。
なんと690匹もの猫たち!

猫への愛で埋め尽くされた猫画集、圧巻です。

森の魔女

カブを探して。

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『バーバ・ヤガー』アーネスト・スモール/ぶん、ブレア・レント/え、こだまともこ/やく、童話館出版

カブを探して森の奥深くまで入り込んだ女の子マルーシャが、おそろしい魔女バーバー・ヤガーにつかまって…。

ロシアの昔話です。

この絵本は、先日古本屋さんで見つけたもの。
背表紙の美しさと、表紙のインパクト、版画の絵の美しさに惹かれて手に取りました。
お話には猫も登場します。
表紙にもいるんですよ。

バーバー・ヤガーの民話は知らなかったので、今回はじめて読みました。
魔女に捕らえられた女の子が、知恵を使って助かるお話。

BL出版の世界のむかしばなしシリーズ絵本が美しくて大好きなのですが、その1つにこのお話が加わったら素敵かもと想像しました。
黒い騎士と白い騎士、バーバ・ヤガーの不気味な家、黒いヒマワリ、ハリネズミの少年。
幻想的で美しい絵本になる要素がたっぷりあります。
強くて聡明な女性が主人公という点もいい。
新しいバーバ・ヤガーの物語、見てみたいものです。

カブ探しにはじまるお話。
大変な目に遭い壮大な展開をしながらも、最後はカブをどっさり食べて終わる。
このずっこけ感も愛おしい。

読み応えある、ロシアの民話絵本です。

城の猫

白猫じゃないよ。

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『しろねこ 英国の古城に暮らす猫を訪ねて』石井理恵子/執筆・撮影、横山明美/執筆・撮影、新紀元社

英国の美しい古城や貴族の館で暮らす猫たちをめぐる旅。

美しい建物や風景、英国の文化に触れられる美しい写真たっぷりの1冊。

猫たちも絵になる美しさ。
どことなく気品あふれる凛とした佇まいです。

文化財のような家具に囲まれたお部屋のなかで自由気ままに暮らす猫たちの姿はなんだか誇らしげにも見えて、写真を眺めるだけでも楽しくずっと見ていられる本ですが、猫や英国についての情報も豊富で読みごたえがあり、満足度かなり高めです。

なにより、「しろねこ」ってタイトルなのに表紙に黒猫をもってくるあたり、とても洒落てる。

大好きな1冊です。

映画探偵

幻の映画はいずこ。

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『チョコレートガール探偵譚』吉田篤弘/著、平凡社

巨匠・成瀬巳喜男監督の映画「チョコレート・ガール」をひょんなことから追うことになった、作り話のような本当の話。

フィルムは残ってないだろうと、早い段階で映像を探すことは諦め、求めるはその原作。
調べるうちに、主演女優の失踪、懸賞小説の信憑性など、気になることが多く出てきて…。

戦前の映画について古本屋や図書館、文学館などを訪ね調べる様子は、まさに大人の調べる学習。
私の好きな要素がたっぷりです。
興味深くて面白くて、一気に読んでしまいました。

そして、ふと思いました。

私の祖父は作家だったのですが、映画化と舞台化された作品があったのです。
戦時中の話ですが、「チョコレート・ガール」より10年くらい後のこと。
もしかしたら、吉田さんのように探したらわかるのかも。

女性の名前で発表したのですがペンネームがわからず、ずっと謎だったのです。
作品名もうろ覚え、おおまかな内容しかわかりません。

難易度高めの調査、まさに探偵です。
これは司書としてのレファレンス能力を最大限発揮しなければなりません。

映画探偵、はじめます。

夏の音

なんのおと?

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『きこえるきこえるなつのおと』マーガレット・ワイズ・ブラウン/作、レナード・ワイズガード/絵、よしがみきょうた/訳、小峰書店

小犬のマフィンをのせた車は、牧場をめざして走ります。
夏の牧場はとてもにぎやか、いろんな音が聞こえてきます。
一体何の音なのかな?

ワイズ・ブラウンの「きこえるきこえる」シリーズ。
夏の音は、生命の気配が濃くにぎやかです。

何の音なのか想像しながらページをめくる楽しみ。
そして声に出して読みたくなる。

気がつくと、全身でこの絵本を楽しんでいるはず。

百年の継続

必要だから作る、ただそれだけ。

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『100年かけてやる仕事 中世ラテン語の辞書を編む』小倉孝保/著、プレジデント社

2013年、イギリスで『中世ラテン語辞書』が100年以上の年月をかけて完成した。
採算度外視ですすめられた辞書作りプロジェクトを追ったノンフィクション。

初期の活動の「言葉集め」はたくさんのボランティアが参加して行われたといいます。
そのボランティアの多くは、この辞書の完成を見ることはできなかったのです。

生きている間に終わらないプロジェクト。

ラテン語話し言葉としては既に死んでいる言葉で、この辞書はさほどの需要も見込めず、絶対に儲けにはならない。
そんな辞書作りが、どうして計画され、100年以上もかけて完成にいたったのか。

とても興味深いことです。

この本の中では、『中世ラテン語辞書』から始まり、オックスフォードの英語辞書作り、そして日本の辞書についてまで話が及びます。
後半の「大漢和辞典」出版にまつわるエピソードが思いのほか興味を引いたので、当時の事を書いた関連書を読んでみたくなりました。

この本もとても面白いのですが、カタカナや数字が多いため、読み進めるのに時間がかかってしまったのですよね。
日本の辞書の話になった途端に集中力と吸収力が高まるあたり、私は生粋の日本人です。

また、漢文を切り捨てた日本人の話も興味深い。
現在、NHK大河ドラマ「青天を衝け」は渋沢栄一が主人公ですが、漢文が当たり前のように読まれています。
現代の私達には漢文を日常のなかで使う意味がわからないけれど、それも言葉の歴史の変遷なのです。
この本の中で言われていることが、ドラマを見ているおかげで手に取るように理解できました。

漢文や漢字を切り捨てることは、文化や伝統の消失につながるという危機感。
ラテン語辞書から、思いがけない所まで話がつながりました。

辞書作りはロマン。
言葉は文明。

効率や採算ばかりを求めがちな現代日本の社会に、そればかりじゃない「大切なこと」に気づかせてくれるような1冊です。

ぽっちゃり

デブ猫の大冒険。

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『かなしきデブ猫ちゃん』早見和真/文、かのうかりん/絵、集英社

デブ猫マルは、幸せな家ネコ生活から、ひょんなことで家を飛び出すことになり―。
愛媛県内を東へ西への大冒険。

マルが家を出た理由がかなしすぎる。
見た目によらずとっても繊細なマル。

でも、坊っちゃんや赤シャツに出会い、マドンナ探しの旅に出て、マルは大きく成長します。

愛媛新聞に連載されていたというこの物語。
いつか愛媛を飛び出して、日本中を旅してほしい。

あたたかいタッチの絵が、ページをめくる楽しみに。
マルの表情とフォルムに釘付けです。
ぽっちゃり、かわいすぎる…!

それにしても、デブ猫って…
強烈な響きですよね。
愛情込めて言いましょうね。

文庫だけど、立派な猫絵本です。