見ている世界がすべてじゃない
隣にいること。
『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒/著、集英社インターナショナル
全盲の白鳥建二さんとアート作品を鑑賞する。
見えない人と見るからこそ、見えてくるもの。
川内さんが描くノンフィクション作品の魅力のひとつは、川内さんご本人の姿が見えることだと思っています。
この本は、川内さんが体験したことから感じた思いや感覚をそのまま追体験できるもの。
ルポルタージュというより体験記といった色合いが強いのですが、その隣には必ず白鳥さんがいて、白鳥さんを追ったドキュメンタリーでもあります。
ザ・ノンフィクション!というような事実の客観性を求めている人には、情報の物足りなさや個人的意見の過多さが気になるかもしれません。
しかし、「川内有緒という人を読みたい」「川内有緒を感じたい」という私のような読者には、それこそが魅力なのです。
川内さんが聞いたら気持ち悪がられるかもしれない…。
読む前は、タイトルから勝手に重いモノを感じていました。
私は視力を失うということに対して、極度の恐れを抱いています。
でも覚悟して読み始めたら、あれ、想像してたのと違った。
今私は学びを得ているんだけど、よかったらあなたも一緒に考えてみませんか?
そんな川内さんの声が聞こえてくるかのような本でした。
アートには、ひとつの確かな答えがあるわけではない。
そんな単純だけど奥深い真理を、目からウロコの方法で教えてくれました。
見えない人が求めていることを、見える人は勝手に決めつけていないか。
ひとりで見るか、誰かと見るか、誰と見るか。
そこに、目が見えるも見えないも関係なかった。
誰かと一緒に、アートを見に行きたくなりました。
そして、白鳥さんに会いに行きたくなりました。
現在進行形の、世界です。
狼のうた
ともに生きたい。
『オオカミのうた』ポール&ドロシー・ゴーブル/作、大中弥生子/訳、ほるぷ出版
探検に出て道に迷ったインディアンの子ども達と、ハイイロオオカミの物語。
細やかで繊細で、平面的にデザインされながらも躍動感のある絵。
不思議な魅力あふれる絵本です。
精霊を信仰し自然と共存して生きてきたインディアンの、力強い生き様を感じさせる。
人も動物も、助け合い豊かに暮らしていた美しい時代を描いた、美しい絵本。
でも、現代社会では、信仰も自然との共存も忘れ去られ、遠い昔のことになってしまっている。
そう訴えてくる、哀しい絵本でもあります。
この絵本は、図書館のリサイクル本コーナーで見つけて連れて帰ってきました。
美しい時代が、図書館からも忘れ去られてしまうことがないように。
バーコードを剥がすために表紙まで切り取られてしまっているのがちょっと残念…。
ポール・ゴーブルはアメリカ・インディアンの作品をいくつか描いています。
ほかの絵本も読んでみたい。
惹きつける魅力があります。
大事なことを伝えてくれる絵本です。
猫とワルツを
おどろう、ワルツを。
『ルビと子ねこのワルツ』野中柊/作、 松本圭以子/絵、講談社
本屋さんのかたすみで、本に積もったほこりから生まれた子ねこのルビ。
ここのところ毎日、お気に入りの本を読みにきていた黒ねこのマック・ロウが急に姿を見せなくなり、心配になったルビは、マック・ロウが看板ねこをつとめるカフェ〈月の庭〉を訪れることに。
「本屋さんのルビねこ」シリーズ第4弾。
ついに猫たちが踊ります!
表紙のダンスのなんてかわいらしいこと!
猫たちの成長、気づきや驚き、小さな冒険。
現実の猫は話をしたりしないから、私達は気づいていないけど、もしかしたらこんなふうに色々なことを考えているのかもしれないですね。
少しずつルビの世界が広がっていく。
ルビの成長から目がはなせない、とってもキュートですべてが愛おしいシリーズです。
ハロウィン
星座をぬけて。
『 ハロウィーンの星めぐり 夜に飛ぶものたち』ウォルター・デ・ラ・メア/詩、カロリーナ・ラベイ/絵、海後礼子/訳、岩崎書店
子どもたちが、トリック・オア・トリートにでかけるころ。
夜空には、星がいっぱい…そして、魔女もいっぱいです。
イギリスの幻想文学作家、ウォルター・デ・ラ・メアの詩の絵本。
見返しのページの、星いっぱい、星座いっぱいの夜空の絵がとても好きです。
ハロウィンといえば、子どもが主役のイベントだったり、おばけやカボチャがクローズアップされた絵本が多いですよね。
そんななか、この絵本が描くのは「星」と「魔女」。
ハロウィンと星を結びつけて考えたことがなかったのでとても新鮮で、でも、すごくしっくりきて、幻想的な物語になっています。
風にのって踊るようなデ・ラ・メアの詩は、声に出して読みたくなる魅力があります。
ハロウィンといったらこの絵本、というくらい、お気に入りの1冊です。
怪物
どこいくの?
『怪物園』Junaida/著、福音館書店
怪物園は、はるかいにしえの時代から、たくさんの怪物たちをのせて、長い長い旅を続けていました。
ある静かな夜、怪物園がうとうと居眠りしたすきに、開け放しの玄関から怪物たちが外の世界へと抜け出しました。
怪物たちが街の通りを行進しているので、人々は外へ出られません。
家のなかで子ども達は、手作りの段ボール箱のバスで、空想の世界へ冒険に出かけます。
コロナ禍で外に出られない、現在の私達の世界のよう。
空想の力を使えば、どこまでも自由に行くことができる。
怖そうな怪物達も、外には出てみたものの、どこに向かっているのやら。
もしかしたらなにか困っているのかもしれません。
相容れないと思われる相手とも対話してみることの大切さも、この絵本から教わった気がします。
Junaidaさんの色彩豊かで美しくも可愛らしくもある絵、見ていて飽きない不思議で楽しい絵本です。
世界は君のもの
そのとおり。
『世界は猫のもの』エムディエヌコーポレーション
家のなかで、窓辺で、街角で。
世界中の、きままで自由な猫たちの写真集。
いろんな時代の、たくさんの写真家たちがカメラにおさめてきた猫の姿。
いつでも猫は気高く美しい。
そして、愛らしい。
ふんわりと「猫」というキーワードで集められた、たっぷりした容量の写真たちは、1枚1枚その趣が異なるのでページをめくっていて飽きることがないし、どこから開いて見ても楽しい。
この世界に猫がいてよかった。
しみじみと、猫愛を深めさせてくれる、満足度の濃い写真集です。
おどるうたう
踊って歌って。
『おどるネコうたうネコ』沖昌之/著、KADOKAWA
踊る猫に、歌う猫。
人気の猫写真家、沖さんの写真集。
決定的瞬間!
踊っているようにしか見えないし、これはもう、まさに歌ってる。
猫の愛らしい瞬間を切り取らせたらピカイチの猫写真家、沖昌之さん。
待望の、ほんと待望の、踊る猫の写真集です。
何度も言ってますが、猫は、踊って歌うんですよ。
そして踊る猫は、幸運を運んできます。
お店をはじめてから踊る猫の絵本を集めはじめて、けっこう集まってきましたが、写真集も最近ちょこちょこ見かけるようになり嬉しい限りです。
踊る猫の魅力に、やっと世間が気づいてくれたのでしょうか。
踊って歌って幸せいっぱいの、楽しい1冊です。