てんてん
これ読めますか?
猫の君子・夜見闇君の命を受け、佐左目谷君を訪ねる旅に出る私の、奇想天外な物語。
他に「行方」「かげろう草紙」も収録されています。
ヒグチユウコさんが装画、名久井直子さんが装丁を担当した本。
河出ムックのヒグチユウコ特集号の中で、ヒグチさんが思い出深い1冊としてあげていたので気になって読みました。
世界観が好きでした。
堅そうに見えてユーモラスな文章は、私のツボにはまりました。
そして、読み進めても見えてこない主人公の姿。
人間なのか動物なのか植物なのか異界の者なのか。
そんなこととりたてて問題ではないと思わせるのが、この物語のすごいところです。
他の2編もそれぞれに趣が違い、とらえどころのない物語たち。
夢の中で体験したような、なぜか知っているような。
かつてどこかで感じたような不安や焦燥を思いおこさせ、心をとらえて離しません。
不気味さと美しさをあわせ持つ物語は、まさにヒグチユウコさんと通じる世界。
本の佇まいもとても美しく、手元に置いておきたくなる1冊です。
浅間山のふもと
暖炉がほしくなりました。
『火山のふもとで』松家仁之/著、新潮社
1982年、およそ10年ぶりに噴火した浅間山のふもとの山荘。
夏のあいだだけ、村井設計事務所はこの軽井沢の地に拠点を移すのだ。
秋に控えた「国立現代図書館」設計コンペに向ける所員たちの静かな情熱と、先生の姪と「ぼく」とのひそやかな恋を描いた物語。
ひと夏の物語。
とてもていねいにていねいに紡がれた言葉たち。
それはそのまま、登場人物たちの生きる日々を表わしていました。
ていねいにていねいに営まれた山荘での生活。
静かで美しい軽井沢の自然の風景、鳥や草花の描写に触れるうちに、その地を訪れてみたくなりました。
音楽や料理、紅茶、車など、こまやかな筆致で描かれるすべてが、彩りとして物語に添えられています。
なにより、建築の知識ゼロの私が、建築をこんなに興味深く思うとは。
今まで考えたこともなかったような視点から建築物を見るようになりそうです。
大事に読みたくて、毎日少しずつ読み進めました。
静かで豊かな時間を大切にしたい人におすすめの長編小説です。
愛された書店
本の力を信じた人生。
『アルジェリア、シャラ通りの小さな書店』カウテル・アディミ/著、平田紀之/訳、作品社
1936年、アルジェ。
21歳で、書店「真の富」を開業し、出版社を起こしたエドモン・シャルロ。
第二次大戦とアルジェリア独立戦争のうねりに翻弄された、実在の出版人の物語。
カミュを世に送りだし、サン=テグジュペリやジッドらとも親交があったシャルロの、豊かに輝きながらも苦悩の多い人生。
出版にまっすぐに向き合う中で発せられる言葉の数々に、胸を打たれます。
あまり世に知られていなかったシャルロの人生にスポットをあててくれた著者に、感謝の気持ちでいっぱいです。
アルジェの人々から愛された書店。
すばらしい作品に出会えました。