美術館で働く
やるしかない。
新米学芸員の今田弾吉は、日々雑用をこなすことに精一杯で、いまだ自ら企画した美術展を実現させていない。
だが、応援団OBから鑑定を依頼された1枚の絵が、彼の心に火をつけた。
大学時代は応援団に所属していたという設定がツボ。
応援団OBや美術館の上司には反射的に絶対服従しちゃう団員精神と、時々行われる応援団エールの実演が、美術館の文化的な雰囲気にミスマッチで何とも言えない味わいがあります。
作中で、日本とニューヨークをつないでリモート講演をするシーンが画期的な試みとして描かれているところに、年月の流れを感じました。
と言っても、この作品はほんの10年位前に発表されたものですよ。
こんな風に「いつでも誰でもリモート時代」になるなんて、当時は想像してなかったでしょうね。
こうやってほんの何年かで文学で描かれる世界は過去のものになっていくのだなあと、不思議な思いで読みました。
美術館学芸員3年目、まだまだ駆け出しの主人公。
彼が出会ったとある会社の人物の「夢が叶って好きな仕事ができてやりたいことができた、その先が問題だ」という言葉に、自分自身やまわりの人達のことを考えました。
やりたいことをやり続けて、生きていけるかどうか。
同じように悩む人はたくさんいると思います。
これは、悩むすべての人の背中をそっと、そおーっと押してくれるような、まさに応援団のような物語。
少しずつでも前進することの大切さを教えてくれました。