魔法の水
信じるということ。
『星の子』今村夏子/著、朝日新聞出版
生まれながら病弱だったちひろを救うため、両親はあらゆる治療を試みる。
ある時、父が同僚からすすめられた「金星のめぐみ」という水を使うと、ちひろは回復した。
やがて両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき…。
中学3年生のちひろの目からみた、家族の物語。
難しいテーマを扱っているけれど、とても読みやすい作品です。
私の幼なじみとちひろが重なって、特別な思いで読みました。
世間から見ると「変わった振る舞い」をする両親のために、嫌な思いをすることもある。でも、物心ついた頃からそこにあった宗教との関わり合いは、ちひろにとってある意味「当たり前」のことでもある。
それが良いとも悪いとも言わない。
そこに好感を持てました。
多感な年頃の女の子にとって「まわりからどう見られているか」は大きな問題です。両親が恥ずかしいと思うことなどは信仰や育ちに関係なく、誰にでも一度は訪れるものではないでしょうか。
ちひろの家庭はちょっと特別な事情を抱えているけれど、それ以外は、本当に普通の中学生の物語。
恋もすれば、友だち関係に悩んだりする。
好きな人に恥ずかしい所を見られたくないし、親に反発して出て行く姉弟もいる。
なにも特別なことではない。
そう思わせながらも、見てはいけない家庭の事情を垣間見てしまったような気持ちが残るのは、この作品の凄さだと思います。
今村夏子さんの作品は、どの本も装丁が素敵です。
思わず手に取らずにはいられない、美しい本ばかり。
『星の子』も美しい本です。