ネコオドルのほんのつぶやき

自然豊かな小さな町で、猫4匹と暮らしています。小さな本屋「ネコオドル」店主が、本のこと猫のことなどをつぶやきます。

色あせない名作。

食べること。生きること。

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『キッチン』吉本ばなな/著、新潮社

唯一の肉親だった祖母を亡くし、祖母と仲の良かった雄一とその母の家で暮らすことになったみかげ。
なにげない日常のなかで、時には孤独を感じながら、喪失感から癒やされていく。

3編のお話どれも、死、残された者の喪失感、孤独、そういったものが感じられる作品です。

吉本ばななさんは私よりちょっと上の世代の作家さんなので、大人の小説、という印象がありました。
私が読んでいたのは江國香織さん、梨木香歩さん、ちょっと後には橋本紡さん。
『キッチン』は読んだ方がいい、と私の中の人がささやくのである日読んでみたら、すごく好きだった。
なんで今まで読まなかったんだろう、と悔やんだのでした。

文章に触れていると、すっと心が落ち着く。
そんな作家さんです。

改めて読み直してみたら、約30年前に発表された作品なのに、まったく古くない。LGBTが受入れられてきた今の方が、むしろすんなりと読めるのかもしれません。
公衆電話の時代の話、そこはスマホの現代とは違いますが、それも気にならないほど、みずみずしかった。いつでもどこでも繋がっていられる現代に、3泊の伊豆出張の大きさは伝わらないかもしれないけど、「距離」や「すれ違い」が今よりもっと存在感をもっていた昔が、どこか美しく思えました。

いつまでも読み継がれてほしい、静かな物語です。