うちにおいで
ちょっとずつ、少しずつ。
『うちのねこ』高橋和枝/作、アリス館
野良猫だった猫が、ある日うちへやってきた。
ゆっくりゆっくり「うちのねこ」になるまでのおはなし。
飼い主さんの思い、猫の気持ち。
ゆっくり少しずつとわかっていながらも焦ってしまったり。
頼っていいのかもと思いながらも信じ切れなかったり。
かつて通ってきた道を辿るような気持ちで、大丈夫だよ、ここがあなたの居場所だよ、と、心の中で話かけるように読みました。
この絵本の「ねこ」は高橋和枝さんの愛猫で、坂本千明さんの絵本『ぼくはいしころ』のモデルとなった猫と同猫。
シノビというかっこいい名前の猫さんです。
しっぽの先っぽがトレードマーク。
野良猫が人間と出会うまでを描いた『ぼくはいしころ』、そして家猫になるまでを描いた『うちのねこ』、2冊あわせて読むと感慨深いものがあります。
うちにも、家猫になったけれどいまだ人間に慣れきれない猫がいます。
立っている人間は苦手で逃げ出すし、ご飯時以外はほとんど姿を見せません。
でもなでてもらうのは大好き。
「そっちに行ってもいい?」って、遠くから鳴いて話しかけてきます。
猫にも猫の気持ちがあって、割り切れない事情があるのでしょう。
それでもうちの子になってくれたことの嬉しさ。
うちにきてくれてありがとう。
ちょうどいい距離感で、これからもよろしくね。
猫がとっても愛おしくなる、素敵な猫絵本です。
ことばは変わる
辞書にも性格がある。
『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』佐々木健一/著、文藝春秋
元は1冊の辞典を共に作ってきた二人は、なぜ決別したのか。
辞書作りの裏側に迫ったドキュメンタリー。
『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』、どちらも三省堂から出版されているロングセラーの辞書です。
この2つの辞典、戦時中に生まれた『明解国語辞典』から、2つの流れとなって分かれたものだったと知っていましたか?
作ったのは、見坊先生と山田先生。
大学の同級生だった二人の決別。
そして辞書に捧げた二人の人生。
辞書作りって、とても人間臭かった。
そして辞書って、個性が強いものなんですね。
この本の中では、二人の人間性を表すかのような辞書の表現について、いくつも取り上げられているのですが、こんなにも作り手の感情や頭の中が辞書に反映されているのかと、面白くなりました。
図書館では、調べものの時には2つ以上の文献を当たることが常識としてありますが、辞書によってこんなに表現が違うならばそれも納得です。
あらたまって辞書の引き比べをしたことがなかったので、本当に新鮮な発見でした。
『三省堂国語辞典』の見坊先生、そして「新解さん」としても有名な『新明解国語辞典』の山田先生、二人の辞書にかけた情熱は、たとえすれ違いがあったとしても、通じあっていたはずだと思います。
わが家には、昭和27年に出版された『明解国語辞典』改訂版があります。
もうぼろぼろなのですが、宝物なのです。
この辞書にまつわる物語を知ることができました。
辞書って、おもしろい。
猫おこま
恐るべし猫のネットワーク。
『国芳猫草紙 おひなとおこま』森川楓子/著、宝島社
人気浮世絵師・歌川国芳の一人娘が誘拐された。
さらわれた先のお屋敷では奥方の首なし死体が見つかり…。
子守兼弟子のおひなは猫のおこまとともに、“猫の網”からの情報を頼りに事件の真相に迫る。
おひなは謎の薬師から薦められた薬を飲んで、猫の言葉がわかるようになります。
ちょっとうらやましい!
猫の言葉がわかる薬、私も飲んでみたい。
巻き込まれちゃった娘と猫のなんだか頼りないコンビですが、その初々しい感じがミステリーっぽすぎなくてよかったです。
そして時代小説はあまり読まない私にも、むずかしいことなしの設定がとても優しくて、読みやすい。
猫達が大活躍するお話、猫好きにはたまりませんね。
『朧月猫の草紙』を下敷きにしたということなので、なんとなく手が出ないでいたこちらにも、俄然興味が湧いてきました。
国芳の猫、続けて読んでみたいと思います。
パリで生きる
この場所で。
『パリでメシを食う。』川内有緒/著、幻冬舎
パリに住み働く10人の日本人の生き方。
丁寧な取材をもとに綴られたルポルタージュです。
海外の地で職を得て暮らしていくことは、きっと想像以上に生きる力の強さが必要だ。
料理人、漫画喫茶の店主、スタイリスト、カメラマンなど職種は様々で、決して成功しているわけではなく、まだまだ道の途中、今いる場所が到達点ではない。
たまたま、いま、パリにいる。
そんな軽やかな空気が感じられます。
自分探しにパリに行くと潰されて帰ってくる、と、大学で仏文学を学んでいた頃によく聞かされていました。
自分自身を持っていないと暮らしていけない場所。
この本を読んでそのイメージが完全に覆ることはなかったけれど、でもパリの優しさにも触れることができて、なんだか嬉しかった。
思っていたよりパリって懐広いんじゃん。
単なる成功体験談より多くのことが得られる本。
日本に縛られている心が、少しだけ解放された気がします。
朝顔
つるをまきまき。
『あさがお』荒井真紀/文・絵、金の星社
朝顔の種をまくところから、種の収穫まで。
朝顔の一生を、美しい細密画で描いた絵本です。
色使いがとても美しい。
朝顔といえば、夏休みの宿題。
これから朝顔を育てる子ども達にも、昔育てたことがあるかつての子ども達にも、みんなが楽しめる、朝顔の魅力がぐんぐん伝わってくる素敵な絵本です。
寄居町では、幻の朝顔「団十郎」を育てて広める活動が行われています。
団十郎は、海老茶色の花が咲く珍しい品種。
昨年は見事に咲いた団十郎のお披露目がありましたが、今年はなんと、7月24日に第1回「寄居朝顔まつり」が開催されます。
今年はお披露目だけでなく、朝顔市もあるので、自宅で団十郎を愛でることも夢ではない。
寄居はいま、朝顔がアツイです!
我が家にも一鉢あるのですが、日当たりがあまり良くないらしく、少し成長が遅いみたい…。
きれいな花を咲かせる日が楽しみです。