ネコオドルのほんのつぶやき

自然豊かな小さな町で、猫4匹と暮らしています。小さな本屋「ネコオドル」店主が、本のこと猫のことなどをつぶやきます。

百年の継続

必要だから作る、ただそれだけ。

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『100年かけてやる仕事 中世ラテン語の辞書を編む』小倉孝保/著、プレジデント社

2013年、イギリスで『中世ラテン語辞書』が100年以上の年月をかけて完成した。
採算度外視ですすめられた辞書作りプロジェクトを追ったノンフィクション。

初期の活動の「言葉集め」はたくさんのボランティアが参加して行われたといいます。
そのボランティアの多くは、この辞書の完成を見ることはできなかったのです。

生きている間に終わらないプロジェクト。

ラテン語話し言葉としては既に死んでいる言葉で、この辞書はさほどの需要も見込めず、絶対に儲けにはならない。
そんな辞書作りが、どうして計画され、100年以上もかけて完成にいたったのか。

とても興味深いことです。

この本の中では、『中世ラテン語辞書』から始まり、オックスフォードの英語辞書作り、そして日本の辞書についてまで話が及びます。
後半の「大漢和辞典」出版にまつわるエピソードが思いのほか興味を引いたので、当時の事を書いた関連書を読んでみたくなりました。

この本もとても面白いのですが、カタカナや数字が多いため、読み進めるのに時間がかかってしまったのですよね。
日本の辞書の話になった途端に集中力と吸収力が高まるあたり、私は生粋の日本人です。

また、漢文を切り捨てた日本人の話も興味深い。
現在、NHK大河ドラマ「青天を衝け」は渋沢栄一が主人公ですが、漢文が当たり前のように読まれています。
現代の私達には漢文を日常のなかで使う意味がわからないけれど、それも言葉の歴史の変遷なのです。
この本の中で言われていることが、ドラマを見ているおかげで手に取るように理解できました。

漢文や漢字を切り捨てることは、文化や伝統の消失につながるという危機感。
ラテン語辞書から、思いがけない所まで話がつながりました。

辞書作りはロマン。
言葉は文明。

効率や採算ばかりを求めがちな現代日本の社会に、そればかりじゃない「大切なこと」に気づかせてくれるような1冊です。

ぽっちゃり

デブ猫の大冒険。

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『かなしきデブ猫ちゃん』早見和真/文、かのうかりん/絵、集英社

デブ猫マルは、幸せな家ネコ生活から、ひょんなことで家を飛び出すことになり―。
愛媛県内を東へ西への大冒険。

マルが家を出た理由がかなしすぎる。
見た目によらずとっても繊細なマル。

でも、坊っちゃんや赤シャツに出会い、マドンナ探しの旅に出て、マルは大きく成長します。

愛媛新聞に連載されていたというこの物語。
いつか愛媛を飛び出して、日本中を旅してほしい。

あたたかいタッチの絵が、ページをめくる楽しみに。
マルの表情とフォルムに釘付けです。
ぽっちゃり、かわいすぎる…!

それにしても、デブ猫って…
強烈な響きですよね。
愛情込めて言いましょうね。

文庫だけど、立派な猫絵本です。

キャッツ

歌うように読みたい。

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『 キャッツ ポッサムおじさんの実用猫百科』T・S・エリオット/著、エドワード・ゴーリー/挿画、小山太一/訳、河出書房新社

ミュージカル「キャッツ」の原作を、エドワード・ゴーリーの挿絵で。

さまざまな猫たちが繰り広げる、奇想天外な猫詩集です。

「キャッツ」といえば人生で一度は観たいミュージカル。
そして一度観たら何度も観たくなるミュージカル。
私はまだ一度しか観ていませんが、また観たい。何度でも観たい。

あのミュージカルの原作が詩だとは意外に思う人も多いのではないでしょうか。

行間たっぷりの詩の世界は、幻想的な猫の物語にぴったりです。

そしてゴーリーの絵とキャッツの世界がとても合う。
ユーモラスで、どこか皮肉じみていて。

躍動感たっぷりに描かれた猫たちはとてもキュート。
ゴーリーは猫が好きだったんですね。

「キャッツ」の詩集はいくつかありますが、私のお気に入りはこれ。

ぐるぐる

ナイスうずまき!

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『鎌倉うずまき案内所』青山美智子/著、宝島社

悩める人々が迷い込む「鎌倉うずまき案内所」。
そこは双子のおじいさんとアンモナイトがいる不思議な場所。

6年ごとに遡りながら、少しずつ繋がっている物語。
人々は「案内」をきっかけにそれぞれの気づきを得て、ちょっとずつ前進していきます。

青山さんの優しさ全開の物語。
世界は少しずつ繋がっていて、小さなきっかけを元に自分自身で「気づくこと」ができる。

パターン化された設定が繰り返される安心感は、水戸黄門のドラマのようです。
でも、パターン化されていても、その時の主人公によって見えるもの、感じることはそれぞれに違っていて、その描写のささやかな違いの細やかさがとてもいい。

ダジャレも同じだな、と思ったり。
双子のおじいさんが繰り出すダジャレも、いつものおやじの安定感から、コトダマへと繋がっていく。

青山さんが描く登場人物たちは、いつもとても愛おしい。
心の動き手に取るように伝わってきて、無理も無駄もない自然な流れのままに一緒に悩み、苦しみ、喜び、いつのまにか自分も前向きになっていく。

なんでこんなに的確に私の心のうちを捉えてくれるんだろう、と青山さんの作品の虜になっています。

読むセラピー。
心にビタミンを欲している人に教えてあげたい物語です。

おふろ

10数えてあがりましょう。

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『おふろ こねこのきょうだいかぞえうた』石津ちひろ/ぶん、石黒亜矢子/え、BL出版

こねこのきょうだい、おふろに入ります。
おふろっていい気持ち!

ひとつ、ふたつ、と数えながら猫の3兄弟が仲良くお風呂に入る、かぞえうた絵本。

ふたつでいきなりフラダンスを踊りだす。
なんてことでしょう!
これは猫踊る絵本に認定ですね。

石黒亜矢子さんが描く子猫たちはとても潔い可愛さ。
コミカルでとってもキュートです。

『おやつ』と『おやすみ』もあります。
3冊そろえて歌いたい子猫絵本です。

いつくしむ

その穴、ふさいでもいいですか?

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『あなふさぎのジグモンタ』とみながまい/作、たかおゆうこ/絵、ひさかたチャイルド

ジグモのジグモンタは、穴ふさぎが得意な服の修理屋さん。
でも、みんな新しいものを欲しがるようになって…。

「穴ふさぎなんてもう役に立たないんだ」と一度は気落ちしたジグモンタですが、最後にはとてもステキな結末が。

色とりどりに描かれたページからは布の手ざわりやあたたかさまで伝わってくるよう。
ページをめくるのが楽しみになる不思議な魅力を持った絵です。

この絵本を読んだとき、寄居町にあるお直しのお店を思い出しました。
アトリエ・リカさん。
服のお直しや、着なくなった服や着物から新しい服を作り出すリメイクをしています。

リカさんの信念が「いつくしみ」。
古き良きものを大切にし、今使えるものに生まれ変わらせる魔法のようなお店なのです。

まさにジグモンタのお話そのものですよね。
こんな素敵なお店が近くにあることが嬉しい。

この絵本から、古いものを使い続ける意味やその素晴らしさを教わることができます。

すぐに新しいものが手に入る今こそ読みたい絵本です。

ジンジャー

茶色は生姜色。

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『ねこのジンジャー』シャーロット・ヴォーク/作、小島希里/訳、偕成社

猫のジンジャーは優しいテレサのだっこが大好き。
いつものんびり、かごのなかでお昼寝。
ところがある日、子猫がかごの中に入ってきた。
ジンジャーと子猫、仲良く遊べるのかな。

先住猫のもとに、新参者がやってくる。
飼い主さんにとって一番ハラハラドキドキする時です。

まさにうちの黒猫とちび猫。

黒猫は穏やかな性格で面倒見がいいので、最初、ちび猫をかわいがって面倒見てあげていました。
でも最近、ちび猫が大きくなってきたら、うっとうしさが勝ってしまったようで。
背中にジャンプとかされると、本気で嫌がってます。
ちび猫が遠慮も加減も知らないから、なおさら。

穏やかな関係を築くには、もう少し成長を待たなくてはいけないようです。

拗ねてしまったジンジャーのとった行動がなんとも切ない。
猫の気持ちに寄り添った、あたたかい猫絵本です。