映画館で働く
趣味はシリトリという古風な高校生スミレは、ある日商店街の映画館に迷い込む。
そこで映写技師に一目惚れしたスミレは、アルバイトを始めることに。
風変わりな特技を持つスミレと、不思議な映画館で出会う不思議な人々の、摩訶不思議な物語。
スミレの語りで紡がれるのですが、読み進めているとその語り口調がクセになる。
なんとも言えない味があります。
いつの間にか不思議な世界に入り込む。
ファンタジーでありながら、ミステリーみたいだし、時々ホラーみたいで。
不思議な本に出会ってしまったなぁ。
文庫版は『幻想映画館』と改題されています。
「電氣館」の方がより幻想的で好みですが、伝わりにくかったのでしょうか。
堀川アサコさんの幻想シリーズ、『幻想郵便局』からはじまり何冊も出版されています。
クセになるオモシロさ。
ハマりそうです。
島
子猫が知る世界の秘密。
『ちいさな島』ゴールデン・マクドナルド/さく、レナード・ワイスガード/え、谷川俊太郎/やく、童話館出版
ちいさな島を舞台に、生き物たちと四季の移ろいを描いた絵本。
まず最初のページから、詩的な言葉に引き込まれます。
谷川俊太郎さんの訳がとてもすばらしい。
声に出して読みたくなる、リズミカルで力強く美しい言葉たち。
荒々しくも静かな海の自然と生き物たちを、ワイスガードがダイナミックなタッチで描いています。
どこかくすんだ色合いが遠い外国の島を想像させます。
お話の中盤で、1匹の黒い子猫がちいさな島にやってきます。
強気でおらおらな子猫がなんともキュート。
そこで教えてもらう、世界の秘密。
目を輝かせる子猫の可愛らしさに、読み手の私も胸がはずみます。
ゴールデン・マクドナルドは、マーガレット・ワイズ・ブラウンのペンネームのひとつ。
ブラウン&ワイスガードコンビの絵本を収集しているので、マクドナルド名義ももらさずチェックしています。
おそらく品切れか絶版になっている作品が多いので、古本を探して少しずつ集め中。
何度も声に出して読みたくなる素晴らしい絵本。
1947年度コールデコット賞を受賞した作品とか。
納得の名作です。
魔女が生み出すファンタジー
想像の空を飛んで。
『ファンタジーが生まれるとき 『魔女の宅急便』とわたし』角野栄子/著、岩波書店
幼い頃からの体験、童話作家としての歩み。
想像の世界とのつきあい方から、『魔女の宅急便』誕生の裏側まで、角野栄子さんの創作の秘密を垣間見られます。
明るい色のワンピースに、赤縁のメガネ。
おしゃれで太陽の光が似合う角野栄子さんは、ワクワクするお話を生み出す現代の魔女です。
子どもの頃、ジブリのアニメ映画『魔女の宅急便』が大好きだった私は、原作の本があると知って、図書館で探して読んだのでした。
映画では描かれていなかった細やかな世界がそこにあることを知り、また、映画のその後の物語が存在するなんて想像もしていなかった喜びを知り。
私のなかの「物語の世界」はその時、果てしなく無限に広がっていったのです。
幸せな読書体験として、『魔女の宅急便』は私の記憶の大切な場所にあります。
それにしても。
表紙の魔女のなんて可愛いこと!
まだまだ読んでいない角野さんの作品があることがわかったので、少しずつ読んでいきたいと思います。
魅惑の部屋
この世界のすべて。
『ヴンダーカンマー ここは魅惑の博物館』樫崎茜/著、理論社
職業体験で県立博物館に行くことになった5人の中学生。
それぞれ別々の仕事を手伝うことに。
博物館にまったく興味のなかった5人の、それぞれの成長物語。
魚類、鳥類、哺乳類、古脊椎、無生物。
5人がそれぞれ手伝うことになった担当名です。
これだけだと、何をするのかさっぱりです。
そもそも博物館ってどんな場所だっけ?と頭を巡らせてしまいました。
でも読んでいると、どんどんと博物館の魅力に気づきはまっていく。
博物館っておもしろい!
物語の中でも、博物館の仕事の面白さを見つけたり、自分を見つめてみたり、5人は少しずつ成長し得るものがあったようです。
1日職業体験。
大人には羨ましい。
さよなら星の王子さま
表紙の黄色が美しい。
『絵本星の王子さま』サンテグジュペリ/著、池沢夏樹/訳、集英社
星の王子さまを絵本で。
原作の良さをそのままに、小さな子どもでも読めるようになっています。
イラストも大きく美しく、見ごたえがあります。
様々な物語が簡略化されたり絵本化されたりして出版されていますが、そこには賛否両論あるかと思います。
私は、小さな子に合わせた形で出版することによって原作の魅力が損なわれることには疑問を持っています。
その作品にふさわしい年齢になったら読めばいいのでは、と。
でもこの絵本は、原作の魅力を最大限残している素敵な作りになっていると思います。
大人になっても読みたい『星の王子さま』。
その出会いの1冊目に、いかがでしょうか。
ところで。
寄居PA(上り)の「星の王子さまPA」が、この3月で終了するとのこと。
とても残念です。
また王子さまと出会えることを信じています。
寄居町と星の王子さまがつながることができて、夢のようでした。
ありがとうございました!
最後の1週間、よろしくお願いします。
ニャンコとねこ
いっしょにいよう。
『ふたりのねこ』ヒグチユウコ/著、祥伝社
ぼっちゃんと暮らしていた猫のぬいぐるみ「ニャンコ」。
気づいたら、ひとりぼろぼろになって公園にいました。
公園に住む猫のおんなのこ「ねこ」と出会い、ぼっちゃんを探します。
美しい絵と、切なくさせる物語。
私がはじめて読んだヒグチユウコさんの本。
ヒグチさんの作品のなかでも特別な1冊です。
はじめて読んだのはもう何年も前ですが、その頃はまだヒグチさんのことをよく知らなくて、「なんでぬいぐるみ?」と思っていました。
ヒグチさんの息子さんがぼっちゃんで、「ニャンコ」は実際に息子さんが大事にしているぬいぐるみ。
それを知った時、この物語の世界がぶわっと一気に広がりました。
こんな風に、大事なぬいぐるみが物語の中でいきいきと存在していたら、とっても嬉しいですよね。
ぼっちゃん、幸せだなあ。
とても美しくて、おしゃれな絵本。
宝物の1冊です。
美術館で働く
やるしかない。
新米学芸員の今田弾吉は、日々雑用をこなすことに精一杯で、いまだ自ら企画した美術展を実現させていない。
だが、応援団OBから鑑定を依頼された1枚の絵が、彼の心に火をつけた。
大学時代は応援団に所属していたという設定がツボ。
応援団OBや美術館の上司には反射的に絶対服従しちゃう団員精神と、時々行われる応援団エールの実演が、美術館の文化的な雰囲気にミスマッチで何とも言えない味わいがあります。
作中で、日本とニューヨークをつないでリモート講演をするシーンが画期的な試みとして描かれているところに、年月の流れを感じました。
と言っても、この作品はほんの10年位前に発表されたものですよ。
こんな風に「いつでも誰でもリモート時代」になるなんて、当時は想像してなかったでしょうね。
こうやってほんの何年かで文学で描かれる世界は過去のものになっていくのだなあと、不思議な思いで読みました。
美術館学芸員3年目、まだまだ駆け出しの主人公。
彼が出会ったとある会社の人物の「夢が叶って好きな仕事ができてやりたいことができた、その先が問題だ」という言葉に、自分自身やまわりの人達のことを考えました。
やりたいことをやり続けて、生きていけるかどうか。
同じように悩む人はたくさんいると思います。
これは、悩むすべての人の背中をそっと、そおーっと押してくれるような、まさに応援団のような物語。
少しずつでも前進することの大切さを教えてくれました。