山のこと
山のようにどっしりと。
『街と山のあいだ』若菜晃子/著、KTC中央出版
登山の専門出版社に勤めはじめて山の魅力にどっぷりハマった著者による、山のエッセイ。
静かな文章で描かれる、豊かな山と自然の風景。
私が最後に山に登ったのは、覚えているかぎりでは大学4年生の冬。
両親と一緒に長瀞の宝登山に登りました。
ロープウェイを使わずになぜ歩いて頂上へ行くことになったのか、登ることになったいきさつは覚えていないのですが、ゆったりとした山登りを経てたどり着いた頂上で、黄色い蝋梅の花が咲いていたのが印象的でした。
それ以来、登山とは無縁の生活をしているので、この本のなかでいろいろな山が登場するけど、いまいちよくわかりはしないのです。
それでもこの本を読んでいると、山の雨にしっとりとぬれ、霧に包まれ、山の植物たちに出会う喜び、山の神秘に触れた瞬間の厳かな気持ちを、自分が体験したかのようにひたひたと感じることができるのです。
読み始めると、すっと心が鎮まるのを感じます。
少しずつ大切に読み進めたい1冊です。
赤と緑
赤はとまれ、緑はすすめ。
『あかいひかり みどりのひかり』マーガレット・ワイズ・ブラウン/作、レナード・ワイスガード/絵、谷川俊太郎/訳、童話館出版
赤い光で止まれ、緑の光で進め。
トラック、車、馬、こども、犬、猫。
みんな朝になると、それぞれの道を通って出かけて行きます。
大好きなワイズ・ブラウン&ワイスガードコンビの絵本。
ワイスガードの絵にであうたびに、その表現の幅の広さに驚かされます。
そしてこの絵本は、谷川俊太郎さんの訳。
ワイズ・ブラウンの詩的で美しい文章がいきいきと伝わってきます。
1日のはじまり、1日の終わり。
日常のなにげない風景を切り取った、温かみのある絵本です。
登場する猫もキュートですよ。
リズミカルで、声に出して読むと楽しい絵本です。
ねずみとくじら
一番の親友。
『ねずみとくじら』ウィリアム・スタイグ/作、せたていじ/やく、評論社
ねずみのエーモスとくじらのボーリス。
海と陸、住むところが違うから、ずっと一緒にはいられないけど、深いところで結びついたくじらとねずみの友情のお話です。
相手を大事に思う気持ちが伝わってきて、温かい気持ちになります。
訳は瀬田貞二さん。
淡い色彩の絵に、淡々とした語り口が合っています。
この絵本、家にいると頻繁に思い出すんです。
それは、これのせい。
ピアノの上に置いてある、工作で作ったくじらと、猫のおもちゃのねずみ。
くじらの上にねずみが乗っていて、まさに「ねずみとくじら」です。
この子たちはいつも一緒です。
猫漫画
猫文学を漫画で。
『Catnappers 猫文学漫画集』長崎訓子/著、ナナロク社
赤川次郎、筒井康隆、別役実、中原昌也、芥川龍之介、更級日記…
猫の短編文学を漫画でどうぞ。
この本を持ってるだけで、猫文学の上級者になれたような気持ちになれます。
そして読めばわかる、奥深さ。
昔の人が書いた猫の話がまとう、猫との距離感みたいなものってあると思いませんか?
好きなのか嫌いなのかわからない感じ。
現代の愛猫家には理解できない部分とか。
長崎訓子さんの漫画にはそんな空気感もうまく表れているようで、それぞれの猫の物語が過度な現代的装飾なく楽しめて、本当に古典を読んでいるようでした。
猫好きなら読んでおきたい1冊です。